このページは、病気の事・予防医学など、動物達に関する事について、
飼い主の皆様にぜひとも覚えておいていただきたい「大切なおはなし」を、いつでもご覧いただけるようにアーカイブ形式にしています。

「あれはどういうことだったかな?」「あの病気ってどういう症状だったかな?」
「フィラリアっていつからお薬を始めるのかな?」「こういう時、どうしたらよいの?」
など、疑問に思った時にいつでもここを開いてご覧ください。

犬猫の腸リンパ管拡張症について

最近、当院で『腸リンパ管拡張症』と診断されたモコちゃんを紹介します。
モコちゃん(パピヨン、雄去勢済み、8歳)は、8月末に血便と元気消失で、来院しました。
血液検査で、血液中の蛋白質、そのなかでもアルブミンが異常に低いことがわかりました(低アルブミン血症)。
難しい話になりますので詳しい説明は省略しますが、血液中の蛋白質が少なくなると、胸やお腹の中に水分が溜まったり(胸水・腹水)、皮膚がむくんだりする(浮腫)ことがあります。
モコちゃんも、胸とお腹に水が溜まっていました。そして、何故か最近、体全体がふっくらしているなと、飼い主さんは感じていたとのことです。後ろ足を中心に、浮腫がありました。
このように、下痢が3週間以上続く場合や血液検査に大きな異常がある(血液中の蛋白質が低下するなど)場合は、その下痢の原因は、単に食べた物やストレスだけではありません。


【腸リンパ管拡張症とは】
腸管と腸の周囲にあるリンパ管が拡張する疾患です。
リンパ管内のリンパ液が腸管の内腔に漏出してしまうため、蛋白質も漏出してしまいます。
犬では、ヨークシャテリア、マルチーズによくみられる疾患です。猫ではこの『腸リンパ管拡張症』に罹ったという報告は、これまでにありません。

【症状】
慢性の下痢が主症状で、進行すると体重減少や腹水・胸水の貯留、浮腫も起こり得ます。
しかし、下痢を全く認めない場合もあります。その場合、血中の蛋白質低下が徐々に進行して、ついには胸水、腹水が貯留し始めます。
そして、そうなってから初めて、元気消失、呼吸困難、下痢などが現れ、来院することとなります。

【確定診断】
腸のリンパ管は非常に小さい組織なので、腸を目で見ての確定診断は出来ません。
腸の組織を一部切りとって専門の機関に送り、『病理組織学的検査』(組織を薄くスライスして、顕微鏡で細胞を診る検査)をします。
これを実施するには、
@ 内視鏡(胃カメラ・大腸カメラ)を消化管に挿入するか
Aお腹を切るか、どちらかで腸の組織を採ります。

人間であれば、麻酔をかけなくても内視鏡が入れられますね。しかし、動物はじっとしていられないですし、咬みついて内視鏡を壊してしまったり部品を飲み込んでしまったりする危険がありますので、全身麻酔をかけてから内視鏡を挿入します。
また、下痢も無いのに血液中の蛋白質が異常に低い場合、考えられる原因は、リンパ管拡張症だけではありません。
その他の原因を除外しなければなりませんので、尿検査や肝機能検査など、いろいろな検査をすることとなります。

【原因】
残念ながら、原因はわかっていません。
ただ、腸に何らかの理由で激しい炎症が続く場合や腸管の腫瘍、静脈の血圧が上がる病気(たとえば右心不全や門脈圧亢進症)から、『二次的に』腸リンパ管拡張症が発症する事もあります。
従って、これらの病気が無いかどうかは、しっかり検査します。
ただし、 腸リンパ管拡張症が長引くと腸に炎症が起こることがあるので、
@ 腸リンパ管拡張症→腸粘膜に炎症
A 慢性腸炎→腸リンパ管拡張症 のどちらも有り得ます。
そして、どちらが先に起こったのかを区別するのは困難です。

【治療】
原因がわからない腸リンパ管拡張症の場合、初期に診断されれば治療するととても良くなることが多いと言われています。
しかし、全く効果が見られない場合もあります。また、とても良くなっても完全に治る(治癒)する事は稀なので、多くの動物の治療は生涯続きます。『二次的』な腸リンパ管拡張症の場合、その原因となった病気の治療が優先です。
治療は、食事と飲み薬が主体です。
食事は低脂肪食とし、ステロイドと言われる抗炎症薬あるいは免疫抑制薬の投与を続けます。
胸水・腹水がある場合には、その水分を尿にして出してしまう目的で、利尿薬を使うこともあります。
また、血液中の蛋白質が低下すると血栓ができやすくなるといわれているので、抗血栓薬を使う場合もあります。

参考文献:犬と猫の治療ガイド インターズー
文責:田辺獣医科病院


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